愛情を込めて作ってもらったお菓子が忘れられない
住宅型有料老人ホームCさん
身の回りの世話はスタッフの方々が見てくれる。
長年連れ添い、家のことはすべて任せていた女房に先立たれ、慣れない家事に悪戦苦闘していた私に、娘が入居を勧めてくれたのがこの施設です。住宅型なので、普段は外出も自由。しかも、なにかあった時には、すぐにスタッフの方々が駆けつけてくれるので安心です。家事がおっくうの私にとっては、食事や掃除、洗濯など、身の回りの世話はスタッフの方々が見てくれるというのが、なにより助かることでした。
食事の味付けは全体的に薄味でしょうか。我々の健康を気遣ってくれている証拠だと思います。たまに女房が作る濃い味付けの煮っころがしを食べたいなと思う時もありますが、それはもう叶わぬ夢ですからね。慣れてくると施設の味付けも、なかなかのものですよ。
食事の楽しみといえば、リクエストランチ。いつもと趣向を変えて店屋物の鰻丼や寿司などの贅沢なメニューが食べられるので、この日は朝からウキウキした気分になります。私は何日も前から指折り数えているほど、楽しみにしていますよ。食べ物の話ばかりして、私はこの施設にすっかり胃袋をうまく掴まれてしまっているようですね。
さらに食べ物の話をするなら、スタッフのNさんが毎年秋に振る舞ってくれる栗きんとんについて触れないわけにはいかないですね。Nさんの自宅には大きな栗の木があるそうで、秋になると、その木に実った栗などを材料にお手製の栗きんとんを施設まで持って来てくれるのです。お味は最高。名店と言われるどの菓子店よりも断然おいしく感じます。一度食べたらすっかりとりこになってしまって…。今では、秋が来るのが待ち遠しいですよ。
仕事が終わってからご自宅で作ってくれているのですが、結構夜遅くまでかかっているそうです。体に悪いので、あまり無理してほしくはないのですが、私たち入居者に喜んでもらいたいという一心で作ってくれています。本当に頭が下がる思いとはこのこと。ここまで愛情を込めて作ってもらった栗きんとんが、おいしくないはずありません。以前終末期を迎えていた仲間がいましてね。もう食事ものどを通らない状況だったのですが「どうしてもこの栗きんとんは食べたい」と話していたそうで、実際に出してみたら食べてくれたという話を聞きました。そうまでして食べたい味なんですよ。その気持ちは私にも痛いほどわかります。こうして話をしているだけで、食べたくなってきました。あと何回食べられるかわかりませんが、人生の最後に食べるとしたら、私もNさんが作ってくれた栗きんとんがいいですね。